本研究は、米国及びドイツで近年開発されている公民教育カリキュラムを対象とし、文献資料を中心に「公共性」をキー概念として分析を行うことで市民的資質育成上の特質を明らかにするとともに、教育現場における具体的な教材や授業実践等の分析も加味して、公民教育がめざす教育上の特質を解明することである。特に、近年盛んに議論されているシティズンシップ教育に関する研究・教育上の知見も基盤とし、社会のとらえ方や社会の担い手である市民としての資質に焦点化し、「公共性」概念を中心に公民教育の特質をとらえることをめざしてきた。本年度は研究計画の最終年度(3年目)として、以下のことを行った。(1)これまで収集してきた文献等の資料や現地での授業記録・聞き取り調査等の翻訳・整理と分析。 (2)特徴的なカリキュラムの特質の分析。(3)「公共性」を視点にした比較・考察による公民教育上の特質の解明。その結果、以下のことが明らかになった。(1)民主主義社会を担う市民の育成を目的とする公民教育カリキュラムの特質は、既存の社会の枠組みに重点をおいた社会的統合を重視するものと、既存の社会の枠組みを基盤としつつも社会の改革までを視野に入れたものとに分けられる。(2)育成をめざす市民としての資質は、既存の社会の担い手の育成に重点をおいたもの(作られた公共性の担い手)と、社会改良をも視野に入れた社会の主体的担い手の育成に重点をおいたもの(作っていく公共性の担い手)とに分けられる。(3)このような特質の違いがカリキュラムの内容や授業方法上の違いに結びついており、公民教育における法教育の導入や参加型学習としての編成など、様様な内容構成・授業方法として現れている。以上の成果をふまえ、国別・カリキュラム別の研究成果を社会系教科教育学会で発表するとともに、各カリキュラムの分析及び公共性を視点とした比較・考察を含めた研究成果を、最終報告書としてまとめた。
|