スウェーデンの学校教育における「根源的価値」とは、(1)人間の生命を侵してはならない(2)個人の自由(3)人間としての尊厳(4)すべての人に等しい価値(5)男女の平等(6)放置された弱者への連帯であり、これらの価値を身につけることによって人間形成を図っていくものである。わが国では、いじめや不登校の問題や社会体験の不足等が学校現揚に生じている。とくに、人間形成の基盤となる道徳教育のあり方が根本的に問われている。本研究では、「根源的価値」の教育の教材を使用して、思春期にある子どもに対して授業を構築していきながら、その有効性と可能性を探究した。また、授業事例を通して「根源的価値」の教育の意味を考察することを試みた。 その結果は、第一に、教材のもつ迫力を周知したことである。「あなたへ」のシリーズは、「たくさんの人が待っている。あなたは大切な人」「ひとりぼっちの人をあなたはあたためてあげることができる」「失敗を恐れない勇気」「幸せってなに、自分を大切にすること。そして、自分と同じくらい、ほかの人も大切にできること」等、どれも足りなさやできないことを指摘するのではなく、やさしく包み込む言葉がちりばめられている。子どもは、授業で思い思いに自分のイメージをふくらませ、日常に流されている自分を立ちどまらせ、ほんとうの自分を探し求めた。第二に、教師の変容を認知したことである。授業で、子どもたちの討論から、教師は思いもよらない子どもの発見や子ども同士の関係が見えてくる。教師が変わることによって、子どもは変わることが実証できた。第三に、授業研究の方法を定着させた。対象児は孤立しているように見える子どもや自分から仲間に入らない子どもとした。教材の選定は、思春期の子どもの自己理解・他者理解の様相を見るために、順次授業実践者と研究者が話し合って選定した。授業分析は、授業実施日に授業逐語記録を作成し、それを基に授業実践者、研究者、授業参観者が事実に基づいて検討を加えた。
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