教育現場のみならず、社会全体で日本の伝統文化の尊重や回帰が叫ばれてから久しい。しかし、日本語に関しては、外国語のような発音指導を受ける機会が少ない上、日本語でうたうという表現行為そのものに焦点を当てた学習機会は、子どもはもとより教師すらも少ないのが現状である。 以上のような問題認識に基づいて進められるこの研究は、日本語による歌唱の教授行為の中でも特に<発声>とく発音>に焦点を当て、この二つの動作の統合的教授の実践によって、実証的に<日本語歌唱>の表現基盤の構築に取り組む研究である。今年度は導入部にあたる研究であり、幼児教育者養成の現場で取り上げられる代表的な10曲から見いだされた課題の整理を通して、いくつかの問題点を提起した。 まず初めに、五十音図と母音口型図の呪縛からの解放である。五十音図は日本語の平仮名の発音を学習する上ではとても効果的な図である。しかし、「た(ta)」と「ち(t∫i)」のように、発音上は異なる子音を含んでいるのに五十音図上では同じ配列になってしまうという短所もある。したがって、子音と母音の区別が無く表記される五十音図だけに頼ることは、音声の構造に気付きづらいということを招いてしまいかねない。 また、母音口型図は、五つの母音の標準的な唇の形が記されており、音声の違いを視覚化する上ではとても便利な図である。しかし、重要なのは、口腔の容積を決定し、共鳴する倍音を特徴づける舌の位置である。このことに気付くことによって、日本語の母音は五種類ではなく、実際はそれらの響きが七色の虹のようにグラデーションがかかったように存在しているということがわかる。 特に、何でも柔軟に吸収する幼児期は、身近にいる教師の存在がとても大きい。だからこそ、子どもと共に教員養成においても、発音と発声を統合した教授法の確立が急務である。
|