平成19年度の研究により、オノマトペには複数の意味や身体的感覚を言葉の響きに乗せて統合的に伝えられる可能性があり、歌唱表現やスポーツの指導といった身体的感覚を伝える教授行為での有効活用が期待できることが示唆された。 東海大学共同研究チームの先行研究(2005)では、「グッ」と握る「サッ」と投げる等の「スポーツオノマトペ」の実態を考察し、(1)「伝達内容の複合性による指導内容の統合化」(2)「記憶の再現性の高さによる指導内容の保持力向上」(3)「語感によるリズムやタイミングの把握の迅速化」の三点がオノマトペを活用したスポーツ指導の効果として報告されている。これら三点の研究成果は、オノマトペと身体的感覚の結びつきの深さを示しており、これらの成果を基に、平成19年度の研究では「日本語歌唱の様々な指導においてオノマトペは有効に活用できる。」という仮説を立てた。 平成20年度の研究はこの仮説に基づき、発声や発音に問題があると感じている学生に対し、オノマトペを活用した歌唱指導を試みた。その結果、被験者の95%に、(1)「歌唱指導の内容が短時間で行動化」(2)「指導内容の保持力向上」(3)「歌唱表現力の拡大」の傾向が認められた。(複数回答有)ただし、これらの傾向には課題が残る。まず、短時間で行動化できるものの具体的に何がどう変化するのかが把握しきれないこと、指導内容の保持力が数ヶ月、数年といった長期間では検証されていないことが挙げられる。また、被験者の約8割は自分の歌声について、「声域」「声量」「声質」のいずれかに関する問題意識をもっており、オノマトペの活用によってできた改善が実際の日本語歌唱の様々な場面でも有効であるかどうかの検証も課題である。さらに、歌唱表現はスポーツオノマトペとは異なり、オノマトペが必ずしも手段だけでなく、多様な響きのおもしろさを生かした歌唱表現そのものとして対象化できる点も注目すべき点である。
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