本年度は、昨年度に引き続き聴覚障害乳幼児の補聴器装用状態における音声の可聴性(audibility)の実際的な測定方法の開発と、聴覚障害乳幼児、保護者それに教師の相互作用に関する参与観察を実施した。当初計画していた、聴覚障害乳幼児の認知スタイルを明らかにする検討を今年度は実施できなかったので、来年度に実施することに変更した。 昨年度に一応完成した補聴器装用時の音声の可聴性の測定システムに関して、RECD (Real Ear to Coupler Difference)を実際の教育や臨床の現場で正確かつ容易に測定するための研究を実施した。補聴器を装用するにあたって、イヤモールドと呼ばれる耳栓に通気穴(ベント)を開けることが通常行われるが、乳幼児に対しては外耳道が狭いので、その際にY字ベントが用いられる例が多い。プローブチューブマイクロホンをY字ベントより外耳道に挿入して、鼓膜面近くの音圧を求め、補聴器で増幅された音声の可聴性が測定できるかどうかの検討をした。その結果、正確かつ容易に測定できることが明らかになった。 今年度はろう学校の乳幼児教育相談部で教育相談を受けている5名の乳幼児とその保護者を対象にして教育相談場面の参与観察を行った。聴覚に障害がある乳幼児の発達に従って、教師がどのようなかかわりをしているかをビデオ記録し、その場での参与観察をもとに「補聴器」、「コミュニケーション」、「生活経験」の3つに分類して内容を整理した。その結果、発達段階に従って「補聴器」については、装用習慣の形成と聞こえの確認及び補聴器の使い方に関する支援の重要性が、「コミュニケーション」については、やりとりの持続とフィードバックの形成それに理解の形成を図る支援の重要性が、そして「生活習慣」については、音への意識付けと聴覚でのイメージの形成それに音を楽しむための支援が大切であることが、それぞれ明らかになった。
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