可積分系と関わる微分幾何に現れる様々な対象は、離散化とよばれる手続きによってその本質的構造を明らかにすることが可能であろうと期待されており、曲面の場合のみならず曲線の場合においても現時点で活発に研究されている。そこで、平成18年度では離散化を伴う曲線の可積分な運動に焦点を当てた。このようなものについては曲線の離散時間発展を定義するための困難さのため、必ずしも離散化を伴わない場合に較べると歴史も新しく先行結果は次に挙げるホフマン・カッツによるもののみのようである。複素射影曲線内の曲線の運動として曲率がコルテヴェーグ・ド フリース方程式に従うものが得られるが、彼らは複比を用いて離散時間発展を定義することによってその離散化を行った。彼らの成功はピンカールによる中心アファイン曲線の運動を言わば複素化することによって曲線の共形微分幾何を考えたことによるといえる。これに対して申請者は複素双曲線内の曲線の運動として曲率がバーガーズ階層に従うものをすでに得ていたが、特にバーガーズ方程式に従う場合についてより詳細に調べ、可積分性が熱方程式のみで保証される事や同期性に関して閉曲線が閉曲線のまま運動することを見いだした。これらの内容は共形微分幾何を通して直接的あるいは間接的に関係しており、現在平行して研究中のボンネ曲面、調和逆平均曲率曲面、ビアンキ曲面、中心アファイン極小曲面、ウイルモア曲面、共形曲率線座標をもつ曲面等の可積分系と関わる曲面族をよりよく理解するための新たな知見となった。
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