研究概要 |
近年,等質多様体の量子コホモロジーの研究と関連して,「Schubert算法」に対する関心が高まっている.これは19世紀にH.Schubertにより創始された「数え上げ幾何」の研究に端を発する代数幾何の一分野であるが,近年ではその枠を越えて,Young図形やSchur多項式といった組合せ論,表現論との結びつきや,トーリックトポロジー,GKM理論などトポロジーとの関連が見出され,一つの大きな潮流となっている.研究代表者は,2007〜2008年度にかけて,鍛冶静雄氏の協力のもと,Bernstein-Gelfand-GelfandおよびDemazureにより導入された差分商作用素のMapleプログラムを完成させ,これを利用して,コンパクト単連結単純Lie群に対する完全旗多様体の整数係数コホモロジー環のSchubert類を用いた表示を完成させた.また,その応用として,Grothendieckのremarkを利用し,例外型の複素単純Lie群E_6, E_7, E_8のChow環を決定した.これらの成果は,国際研究集会「Conference on Algebraic and Geometric Topology」(Gdansk,2008年6月)および「第55回トポロジーシンポジウム」(金沢,2008年8月)において発表された.また,完全旗多様体を含むより一般の射影的等質多様体に対しても,上記の差分商作用素による計算を進め,特に例外型Lie群の等質空間の整数係数コホモロジー環のSchubert類を用いた表示を確立した.これら結果をまとめた論文は,近々arXiv上で公開される予定である.また,複素Grassmann多様体のコホモロジー環と組合せ論との関係(Schubert類とSchur関数,Schubert多様体の交叉数とLittlewood-Richardson規則)は古くから知られており,これらのLagrangian Grassmann多様体,直交Grassmann多様体のコホモロジー環への拡張が,Hiller-Boe, Pragacz-Ratajski等により研究され,トーラス同変コホモロジー環への拡張が,Knutson-Tao, Ikeda-Naruseにより研究されている.これに関して,池田岳氏,成瀬弘氏と共同で,従来の研究では扱われていない等方的Grassmann多様体IG(m, 2n) (C^2nの中のm次元等方的部分空間全体)の場合に,部分的な結果を得た.
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