研究概要 |
発展方程式の数値解の信頼性の向上を目的として,誤差移入による解の構造の変化に対する,統計的な挙動の考察を行った.特に本研究では,まず一様乱数等によるランダムな様式での誤差を発生させてランダムネスを付加した場合に,数値解の統計的な構造がどのように変化するかについて,ロジスティック方程式やローレンツ方程式等の比較的単純な非線型発展方程式系を離散化した差分方程式系に対して,確率論的および力学的な見地から理論的考察を行った.同時に数値実験をおこなうことによって,その理論の正当性を実証することを試みた.まず確率差分方程式の平均値としての力学的挙動がもとの差分方程式の構造とどのような差異があるかについて理論的に考察し,決定論に従う差分方程式と同じパラメータをもつランダム項が付加された確率差分方程式では,ランダム項の分散の大きさによっては,平均値として異なる構造を持つことが示唆された.従って,個々のサンプル計算において,誤差移入によって定性的に解が変化する方向性が見いだされたことになり,実際の数値解析において,精度がそれほど得られない計算でどのような解の定性的変化があるかについての知見が得られた. また,その結果を実際の流体シミュレーションにおける誤差移入の影響について調査した.その結果,人工粘性項のような系を安定化させるパラメータと同様の効果を誤差移入がもつ可能性があることが示された.この結果は,反復解法の収束条件による精度の低下(誤差移入の増大)により計算される系が安定化され,より次元の低い幻影解の発現を誘起する可能性があることを示唆している.
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