ロトカ・ボルテラの捕食者-被食者モデルでは、被食者がロジスティック成長して捕食者がHolling II型の機能的反応を持つ場合、被食者の環境収容力が増加すると個体群ダイナミクスは不安定化することが知られている。そのため、たまたま周期解が小さな値をとったとき、わずかな環境変動によって解の値が0になり絶滅が起きやすくなることが示唆される。この理論的な予測に基づいて、Rosenzweigは湖沼生態系における富栄養化の危険性を警告し、環境条件が良くなると絶滅が起きる可能性があるということから、この現象を「富栄養化の逆説」と呼んだ。この逆説を解消するためにロトカ・ボルテラの捕食者-被食者モデルを拡張した3変数の常微分方程式モデルを提案しJ.Math.Biol.58(2009)459-479において発表した。この研究は大阪大学基礎工学研究科の小川知之、京都大学生態学研究センターの仲澤剛史との共同研究である。また、このモデルにおいてmixed-mode振動やカオスのような複雑な解の挙動が観察されるパラメータ領域をAUTOとよばれる分岐解析ソフトウエアを用いて調べ、そのメカニズムを幾何学的特異摂動論にもとづいて明らかにした。これは、九州大学の千葉逸人との共同研究であり、Chaos19(2009)043121で発表した。以上の研究は「非線形性の生み出す複雑さ」という観点において、散逸系やハミルトン構造の研究と関連があるといえるだろう。
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