研究概要 |
今年度はクラミジア性感染症の数理疫学モデルの解析のための準備として,同感染症より伝播が穏やかなヒト成人T細胞白血病の数理疫学モデルについて研究を行いました.この問題の先行研究では感染者の母集団動態に関する数理疫学としてキャリアが時間の中で消滅,あるいは存続できる条件をもとめています.日本の現在の生活環境ではキャリアは減少し,およそ100年で全部のキャリアが消滅することを計算機ミュレーションで示しました.これらの研究で用いた方法は微分方程式,差分方程式および確率論を基礎とした方法です.このキャリア分布を広い地域(例えば日本列島)としてその分布全体を眺めると,著しい地理的偏在があります.本研究はキャリア分布と古代日本の人口動態(考古学で出土した遺跡数と年代から推定した研究結果)を数学的な考察を通して強く結びつけることができました.病気の原因となるウイルスを,人類と共存している生物と考えることにより,日沼頼夫が提唱した「ウイルス人類学」が数理解析的方法を使って創造される可能性があると予想されます.勿論,ウイルスの遺伝子型に基づく方法がありますが,数学を用いる方法も新しい研究の方向性を与えると思います.また,本研究の方法はその他のウイルス,例えば肝炎ウイルスなどのキャリア分布を用いた研究にも展開できると考えています.人間と共存関係にあるウイルスはヒトの移動や環境変動の影響を母集団のキャリア分布に残し,数理的考究を与えることにより時間的な議論が可能になります.
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