本年度は以下の2つの研究を行った。 集団遺伝学に現れる二倍体生物集団における自然淘汰の互助的相互作用(2つの遺伝子座、もしくは、2つのDNA塩基座位を考え、どちらか一方に突然変異が生じると有害だが、2つの突然変異が共存すると、有害性が消失する座位間相互作用)による分子進化の確率モデルを次の2つの確率過程で記述し、ある境界点への初期到達時間の性質、とくに、初期到達時間の平均のモデル・パラメータ依存性を考察した。一方のモデルは離散時間マルコフ連鎖で記述されるWright-Fisherモデルでありコンピュータ・シミュレーションを中心とした解析を行った。他方は多次元拡散過程で記述される拡散モデルであり有限要素法を用いた偏微分方程式の数値解析を中心とした解析を行った。これらの結果に前年度までの結果を統合し、学術論文を作成しを公表した。また、2008年7月にベルリンで開催された第20回国際遺伝学会議でこれらの研究成果を発表した。さらに、このモデルがタンパク質科学における共進化の概念を対応していることが明らかになり、このモデルを一般化することの重要性が確認された。その認識に基づき、2つの突然変異が共存すると有利度が増す場合や、第2の遺伝子座の遺伝子重複により第3の遺伝子座が生じた場合の互助的相互作用のモデルの定式化を行った。 集団遺伝学における基本的な確率モデルの一つである連続時間Moranモデルの性質を境界点の性質に注目して考察した。とくに、指定した一方の境界点に先に到達するという条件を課すことにより誘導される確率過程(条件付き確率過程)の性質を1次元広義拡散過程ど出生死滅過程の理論を援用して考察した。
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