研究概要 |
東京では郊外から多くの人が映画'Shall we dance?'のように1時間から2時間かけて電車で通勤している,感染症伝播での通勤者の問題はわが国の特徴的な事象である.インフルエンザの伝播解析では列車中の感染の影響を評価する必要がある.本研究では東京の主要な通勤路線である中央線沿線を対象に流行伝播解析コードを開発し,シミュレーションによって流行拡大対策の効果を検討した. 本研究では,人々の生活を統計データに基づいてシミュレーションする.シミュレーション手法は,Individual Basedなモンテカルロ法である.感染は人々のコンタクトによって生ずる.コンタクトは家庭,学校,会社,ショップ,列車において確率的に生じるものとした.開発したモデルを仮想中央線とよぶ.さらに,モデルの信憑性を実際の流行の2002年年末から2006年初頭までの実データによってモデルの正当性を検証した. シミュレーションによって以下のことが判明した,中央線沿線のインフルエンザ流行伝播は少数の感染発生が続く初期フェーズと地域社会で流行が拡大するフェーズの2つからなる.インフルエンザの主な感染場所は,初期フェーズでは通勤列車,拡大フェーズでは学校と家庭であった.初期フェーズではインフルエンザが通勤者による地域へ侵入し,拡大フェーズでは学校,家庭での感染によって流行が拡大した. 学校閉鎖,交通遮断,学童へのワクチン接種の3っの対策を比較すると,学校閉鎖は,流行のピークを低くし流行の拡大を遅くする効果があった,ただし,総感染者数の減少は小さかった.交通遮断は,地域へ流行が侵入した後では効果がほとんどなかった.学童へのワクチン接種は,学童だけでなく成人の感染者数も減少させることが分かった.学童へのワクチン接種は,発症しない学童が学校と家庭での感染のリンクを断ち切るので,成人を含めた地域全体の感染者を減少させるのである.
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