研究概要 |
本研究は,我が国の首都である東京近郊のインフルエンザの流行についての数理モデルとシミュレーションによる研究である.我が国の首都圏では,映画"shall we dance?"のように,非常に多くの人々が毎日朝と夕方郊外のベッドタウンと東京の間を往復している.多くの人々の'日周運動'は東京近郊の特徴であり,インフルエンザ流行シミュレーションおいて考慮する必要がある事項である.昨年度の研究で,学校閉鎖は流行のピークを低下させて流行拡大を遅らせる効果があること,交通遮断は地域へ流行が侵入した後では流行抑制の効果は小さいこと,学童へのワクチンの接種は学童だけでなく地域全体の感染者数減少の効果があることが判明した. 本年度は,複数の対策を組み合わせて実施したときの相乗効果の検討を行った.相乗効果は組み合わせの種類によって大きく異なる.学校閉鎖と交通遮断を同時に実施すると,実施期間中のインフルエンザの流行は大きく抑制されるが,実施終了後に流行は再び拡大する.実施期間中は感染者とのコンタクトが大幅に減少するため流行が抑制されるからである.学童ワクチン接種は有効な対策であるが,学校閉鎖を同時実施しても対策の効果はあまり変わらない.学童ワクチン接種と学校閉鎖は,学校で感染した学童が家庭にインフルンザを持ち込むという流行のメカニズムの同じ部分に作用するからである.また,学童へのワクチン接種と交通遮断の相乗効果はほとんどみられない.通勤者はベットタウンにインフルエンザを運び込むが,流行拡大の主要な要因である学童間の感染とは独立したプロセスであることを示している. 東京郊外においてインフルエンザは通勤者によって伝播するのであるが流行拡大のキーは学童であり,インフルエンザ対策は学童への対策にフォーカスして実施するのが効果的であることが本研究で示された.
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