研究概要 |
本年度は,以上の課題の中から特に,(1)量子系の相互エントロピー型尺度に関する研究,および(2)量子論理ゲートの定式化に関する研究に焦点を絞り,上記の研究計画に従って研究を実施し,以下の成果を得た。 (1)量子系の相互エントロピー型尺度に関する研究 通信過程において,チャネルは入力系の情報を出力系に伝達する働きをもち,相互エントロピーは,チャネルを通して入力系から出力系に正確に伝わった情報の量を表している.通信路容量(capacity)とは,チャネルが入力の情報量を最大でどれだけ正確に出力系に伝達することができるかを測るための尺度であり,チャネル設計に関して重要な基準となっている.本年度は,Ohya相互エントロピーと,近年,Shor,Bennet達が定めた相互エントロピー型尺度,Coherent informationやLindblad-Nielsenのエントロピーとの比較を減衰チャネルで行い,Coherent informationやLindblad-Nielsenのエントロピーが抱える問題点を指摘し、Ohya相互エントロピーが減衰チャネルに対して最も相応しい尺度であることを示した。 (3)量子論理ゲートの定式化に関する研究 計算の高速化に伴い現在のコンピュータが持つ避けられない欠点の一つがAND・ORゲートなどが有する論理演算の非可逆性である.この論理ゲートの非可逆性の欠点を解決する試みのひとつにフレッドキンとトホリによって提案された3入力と3出力の可逆な論理ゲートがある.ミルバーンは彼らの仕事を基にマッハー・ツェンダー干渉計と位相変調を起こす光カー装置を用いて可逆な光論理ゲート(FTMゲート)を設計した.本研究代表者等は,このFTMゲートを量子チャネルの表現を用いて再定式化し,FTM量子チャネルにおける情報伝送の効率を量子相互エントロピーを計算することによって正確に調べた.しかしながら,FTMゲートは制御光に光子数確定状態という物理的に実現することがきわめて難しい光の状態を使用しており,現在のままの定式化ではこのゲートの実現化は非常に困難であると言わざるをえない.本研究では,対称化されたフォック空間上で,一般化ビームスプリッターを定式化し,それを基に,4つのビームスプリッターを用いた量子論理ゲートの有効性について議論した。さらに,FTMゲートの問題点を量子直交状態の一種であるシューレディンガーの猫状態を用いて解消できることを示した。
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