研究概要 |
本研究は,領域の境界の一部の形状が未知であるとき,境界の他の一部での温度データから未知形状を推定する逆問題を対象としている。この問題に対しては,他の研究者によりいくつかの結果が得られているが,いずれも主として未知形状が時間変動しない場合を扱っている。本研究では時間変動を許した場合を考察している。また先行する研究の多くはNeumann境界条件を課しているが,我々は混合境界条件を課している。 温度データと未知形状との関係は非線形である。そこでまず本研究を行う前に,Bryan and Caudill, Inverse Problems 14(1998)1429-1453のアイデアを参考にし,方程式を一般化して線形化した問題を考察した。この問題に対し,未知形状の一意同定性定理を得,その新しい再構城方式を提案し収束性と安定性を示した。本年度当初この研究はだいたい出来上がっていたが,その後証明の細部を完成させ、得られた結果はInverse Problems in Applied Sciences-towards breakthrough-北海道大学(2006年7月)でH.Kawakami, Y.Moriyama, M.Tsuchiyaの共同研究として口頭発表した。上記の結果に再構成方式の有効性を検証する数値シミュレーションを加えてInverse Problems誌に投稿した。これはvol.23に掲載予定である。 その後,交付申請書の「研究の目的」欄に記載した「線形化をしない本来の問題」への取り組みを開始した。BryantとCaudillはElectron J.Diff.Eqns.C-1(1997)23-39(以下[BC])で,いくつかの条件下で本来の問題の形状の一意同定性定理を得ている。我々は現在その結果を,時間変動する領域の混合境界値問題の場合に拡張することを試みている。なお,[BC]並びに他の先行する研究では,初期値が定数という条件を課している。この条件を緩めるために,交付申請書の「研究実施計画」欄に記載した積分公式を用いる方法も考慮中である。
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