研究概要 |
本研究は,領域の境界の観測できない部分の一部の形状が未知であるかあるいは時刻と共に未知の変形をしているとき,観測できる境界の部分(観測面)での温度データから未知部分あるいは変形部分の形状を推定する逆問題を対象としている.現実の局面への応用を考え,領域の正則性はできるだけ緩い条件で扱い,境界条件についても混合型境界条件の場合を扱う:形状を推定したい境界の部分ではDirichlet境界条件を,他の部分ではNeumann境界条件あるいはRobin境界条件を課す. 昨年度は,まず線形化した問題を考察し,得られた結果を学術誌Inverse Problems23(2007),755-783で発表した.それに続き今年度は,「研究の目的」にも記載したように,線形化をしない本来の問題について、まず変形部分の形状の一意同定性定理を得ることを目標として研究を行い,以下に述べる結果を得た.これは「研究実施計画」にも述べたBryant and Caudill(Electron. J. Diff. Eqns. C-1(1997),23-39)の手法と結果を,変形部分が時間変動する場合も許し領域の正則性も緩めさらに混合型境界条件を課した場合への拡張および精密化を与えたものとなっている.これらの結果の概要は今春の日本数学会年会(平成20年3月25日)で発表し,さらにその詳細を公表すべく投稿準備中である. 今年度得た結果の大要は次の通りである:形状を推定したい領域は多次元ユークリッド空間の有界Lipschitz領域とする.方程式は有界な係数をもつ一般型の斉次放物型方程式で,拡散係数はLipschitz連続かつ一様楕円型であるとする.観測面におけるRobin境界値は[0,T]の各時刻において境界のどこかで0で無いとする.そして,初期時刻t=0での領域の形状が既知であるか,あるいは初期値が0であるとする.このとき,[0,T]における観測面での温度データから,[0,T]における変形部分の形状が一意に決まる.
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