1988年、Z.J.Ruanによって導入された作用素空間の概念は、作用素環論のみならず、関数解析学全般にわたる新しい視点を与えた。作用素空間の双対空間や作用素空間から作用素空間への完全有界線形写像全体に適切なノルムを導入することにより、作用素空間の構造を導入することが出来る。ノルム空間での議論が全て作用素空間の中で行えるのみならず、ノルム空間の新たな構造を見い出すことが出来た。標語的には、『作用素空間論は、関数解析の量子化である。』と言える。 これに対し、私と渚(千葉大)は、作用素空間の背後にある多様な数域半径作用素空間の存在を見出した。特に今年度は、行列空間上のの最大数域半径ノルムの特徴付けを通じて、ヒルベルト空間上の有界線形作用素に定義される通常の数域半径ノルムが、数域半径作用素空間と見たとき最大であることを示した。さらに、数域半径ノルムと作用素ノルムが、作用素の分解を用いて特長付けるとき、互いに双対の関係にあることを得た。この特徴づけを用いると通常知られている数域半径に関する不等式や作用素ノルムとの関係が、大変見通しやすく理解できるメリットがある。 一般にC*-環やフォンノイマン環の中でも作用素の分解を通じ、ノルムを定義することができるが、環としての特徴が関与するかは、今後の課題である。
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