研究概要 |
この研究の目的は,Banach環の保存問題を,合成作用素と関連づけて研究するものである。とくに,スペクトル保存に注目し,次の問題を考える。 問題:Banach環の間のどんなスペクトル保存写像が,合成作用素を用いて表現されるか? この問題の部分的な解答が,2002年に,L.Molnarによって与えられた。それは,「ある仮定のもと,連続関数環C(X)上の単位的かつ乗法的な全射スペクトル保存写像が,合成作用素を用いて表現される」というものである。そこで,C(X)を関数環に拡張することを考え,次の定理を導いた(下記1番目の論文)。 定理1:関数環の間の単位的かつ乗法的な全射スペクトル保存写像が,合成作用素を用いて表現される。 この定理の証明には,峰関数を利用するという独自の方法を用いた。また,ほぼ同時に発表されたN.V.Rao and A.K.Royの結果と重なる部分もあるが,定理1は,スペクトル保存を値域保存と関連づけていて,より広い観点をもっている。これ結果は,羽鳥理(新潟大)氏と三浦毅(山形大)氏との共同研究による。まさに,これがこの研究課題のきっかけになった。その後,同メンバーで,定理1の関数環をBanach環に拡張する試みをし, 定理1の「関数環」を「単位的半単純可換Banach環」に拡曝しても,同様のことが成り立つ ことをつきとめた(下記の2番目の論文)。この拡張には,分担者の高橋眞映(山形大)氏との別の研究で得たアイディアを用いた。 他に,この研究に関連して,関数空間上の作用素に関する研究もすすめた。分担者の高橋氏とは,Hyers-Ulamの安定性をもつ作用素についての研究を行ってきたが,今回は,f(x+y)+cf(x)f(y)=k(x+y)とf(x+y)+cf(x)f(y)=k(x)k(y)という型の関数方程式について,その可解性とHyers-Ulam安定性を示した(下記の3番目の論文)。
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