研究概要 |
この研究は、次の定理が得られたことに、端を発する。 定理:関数環の間の乗法的にスペクトルを保存する単位的全射写像は、合成作用素として表現される。 この定理のアイディアを活かして、Banach環の保存問題を、合成作用素と関連づけて研究することが、この研究課題の目的である。 上の定理は、羽鳥理氏(新潟大・理)と三浦毅氏(山形大・理工研)との共同研究で得られたものだが、さらに,分担者の高橋眞映氏(山形大・理工研)の協力を得て、その技法の発展を探ってきた。そして、上記定理の仮定「スペクトル保存」は、「末梢スペクトル保存」に緩められることがわかった。また、単位元をもたない環の場合の考察も行った。さらに保存問題への観点を広げて、関数環の間の2-局所同型写像(全射)や2-局所等長写像(全射)をとりあげ、それらが合成作用素として表現できることを、つきとめた。 一方で、合成作用素のひとつであるシフト作用素の研究もすすんだ。Hilbert空間上のシフト作用素の共役作用素が自然にもつ性質を、Banach空間の上で考えたシフト作用素が共有するかが、明らかになった。また、閉区間上の連続微分可能な関数の空間の上では、シフト作用素が存在しないことも、わかった。 他に、高橋眞映氏とは、Hyers-Ulamの安定性問題と関連させて、Banach環上の作用素のCaushy-Euler型の分解についての新しい観点を発見した。また、Hua型不等式の応用結果も得た。 「関数環研究集会」(2008年11月)や「つくばセミナー」(2009年3月)は、われわれの研究グループが中心になって開催し、関連の研究者が多く参集した。そこでは、上記の話題の他、ハーディ空間上のスラントToeplitz作用素のスペクトルに関する院生との共同研究の結果も発表した。
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