研究課題
本年度はまず、4つの研究目標のうち(1)パンルベ階層に対するインスタントン型形式解の構成、(2)第一種変わり点におけるインスタントン型形式解に対する局所的構造定理の確立、について昨年度に得られた結果を論文にまとめると同時に、退化した(D_8)型の第3パンルベ方程式の接続公式等の構造を大学院生の若子英晶君と共同で解明した。この退化第3パンルベ方程式は、パンルベ方程式の単純極における標準型を与えると期待されると共に、本研究の目標(3)第二種変わり点での高階パンルベ方程式の標準型、の候補と考えられる方程式の雛形とも見なし得る。その意味でこの結果により目標(3)の実現に向けての端緒は得られたと言えよう。上記の「研究実施計画」に沿った研究とは別に、2008年初めに来日したSilverstone教授との議論をきっかけとして、2個の合流する単純変わり点をもつ線型方程式のWKB解のボレル変換の構造に対する河合隆裕氏、青木貴史氏との共同研究が本年度は大きく進展した。一般に線型方程式のWKB解のボレル変換には「動かない特異点」と呼ばれる特異点が存在し、方程式に含まれるパラメータが変化する際に起きるストークス現象で重要な役割を果たす。こうした動かない特異点の構造を、ウェーバー方程式への変換論を用いて解析することに成功した。この結果は、線型方程式の変形を通じて現れるパンルベ方程式やパンルベ階層の研究にも大きな意味をもつと期待される。更に、パラメータに関するある種の差分方程式が動かない特異点の解析に関係することも明らかになったので、存在が予想されるパンルベ方程式の形式べき級数解の動かない特異点とパンルベ方程式のベックルント変換の間にも何らかの関係が見出される可能性が出てきた。来年度は「研究目的」に沿う本来の研究と並行して、こうしたパンルベ方程式と「動かない特異点」との関わりについても考察してみたい。
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