研究概要 |
パーティ会場のようないろいろな音源が混じった環境でも,我々は会話ができる.つまり,特定の音源のみを識別することができる.この聴覚系の能力はカクテルパーティ効果と呼ばれ,心理学から工学にわたる広い分野で研究されている.工学的には,複数個の信号源から信号が出力されている状態で,異なる性質や設置位置を持つ複数個のセンサーで捉えた観測信号のみを使って,信号源の個数とそれぞれの信号源の出力を決定する逆問題(ブラインド信号源分離)に帰着できる. 本研究課題は,ウェーブレット解析による時間周波数情報を使ってブラインド信号源分離を行うための基礎理論の構築とその工学への応用に関する研究である.今年度は,観測信号が信号源と混合行列の積で記述できる空間的混合問題に的を絞って研究を行った. 従来は,観測信号を短時間フーリエ変換して得られる複素数値時間周波数情報の商を利用して,信号源の数の特定および混合行列の推定を行っていた.本年度は,複数種類の実数値ウェーブレット関数で変換した時間周波数情報を並べたベクトル(時間周波数情報横ベクトル)の比を用いることを提案し,信号源の数の特定および混合行列の推定をより精度良く行った. さらに,観測データごとに得られる時間周波数情報横ベクトルを,縦に積み重ねた時間周波数情報行列を用いる方法を提案し,よりよく混合行列の推定ができることを数値実験により確認した. 現在,時間遅れが入った空間的混合問題について,コンピュータシミュレーションを行っている.また,観測信号が信号源とインパルスレスポンス行列の合成積で記述できる時空間混合問題への対処法を,ウェーブレット解析をシステム同定に応用した方法を用いて研究中である.
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