研究概要 |
今年度はパンルヴェ階層に属する非線型微分方程式系の完全WKB解の構成に関していくつかの成果が得られだ.パンルヴェIV型階層のような未知関数を複数有する高階非線型微分方程式の形式解を構成するためには主要部が満たす連立高次代数方程式を解く必要があり,一般にこのような方程式の解の存在自体判定が困難である。今年度の研究では昨年度に得られた研究成果である緩正則性の概念を基に,多項式系に対し変数に重みを付与して次数を測ることにより得られた主要部分(最高次部分)の緩正則性(主緩正則性と名付けた)が元の系の緩正則性を保証するという結果が得られた。この結果は緩正則性の定義と代数幾何学のいくつかの定理を用いて証明された.これにより緩正則性の適用範囲は飛躍的に広がり、種々の非線型微分方程式系の完全WKB解(大きなパラメータの逆べきに関する展開をもつ形式解)の主部の存在が保証されると予想される.実際,応用としてパンルヴェIV型階層にこの理論を適応した,すなわち2つある未知関数に(1,2)という重みを付けることにより,主要部分を決定する連立代数方程式系が主緩正則性を有するであることが分かり,その結果,任意の次数に対して形式解が構成可能であることが証明できた.すでにパンルヴェII型階層やパンルヴェI型階層については形式解の構成可能性は得られているが,昨年度の結果と併せると現在知られているパンルヴェ階層に属するすべての方程式系に対して形式解構成ができたことになる.併せて今回の結果は代数幾何学・環論における正則性の議論にも新たな視点を付け加えたと考えられる.
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