研究概要 |
本研究の目的は,非線形系の記号力学系による表現可能性を探ることである.これまでの私自身の研究から,周期点に収束するような不変集合列を含む不変集合は,記号力学系によるfinite-to-oneのsymbolic extensionを持たない,ということがわかっている.KAM理論的な状況がまさにそのような場合である.一方で,Boyle-Fiebig-FiebigとBuzziの結果から,無限回微分可能な微分同相写像は,常にsymbolic extensionを持つことが知られている. エノン写像は解析的なので,面積保存の場合,non-zero Birkhoff first coefficientを持つ楕円型周期点が存在するパラメータにおいては,その回りのinvariant circleで囲まれた円盤上ではsymbolic extensionが存在することになるが,上記の結果から,それは無限対1でなければならない.積分可能な状態,すなわちinvariant circleでfoliateされたようなannulus上では有限対1のsymbolic extensionが存在するので,それがわずかにtwistされ,サドルやhomoclinic pointなどが出現した時点で,symbolic extensionの有限性が崩れる,という現象が起きていると考えられる.しかし,Young-Wangの結果から,dissipationが強い場合のnon-hyperbolic attractor上では,有限対1のsymbolic extensionが存在するので,有限的な記号力学系表現の不可能性には,KAM理論的状況に特有な何かが関係している可能性がある. 平成18年度においては,このような現象の解明のために,Boyle-Fiebig-Fiebig, Buzziらによるsymbolic extension存在証明の詳細な検討を行い,記号力学系表現の有限性,無限性との関連を調べたが,明確な結果を得るためには,平成19年度においてもこの方向性での研究を継続する必要がある.
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