前年度に引き続き、可換および非可換の場合の離散幾何解析学の研究を行い、特に結晶の数学的理論を確立、幾何学的結晶理論への応用を企てた。これまで結晶格子(結晶構造を抽象化した数学的図形)上のランダム・ウォーク(酔歩)の研究を行っていたが、ランダム・ウォーカー(酔っ払い)が「結晶格子の最も自然な空間への入り方を検出する」ことに注意し(正確には推移確率の極限定理から「自然な入り方」を読み取ることができる)、この事実の応用を考察したのである。ここで「自然な入り方」というのは、一言で言えば(数学的)エネルギーを最小にし、その結果「様々な入り方」の中で最も大きい対称性を持つものである。この事実を用いて、筆者はダイヤモンドのほかにもう一つだけ極めて大きい対称性を持つ結晶構造が存在することを見出した。数学的には、これは完全グラフK_4の最大アーベル被覆グラフの「自然な空間への入り方」である。この構造は、別の動機から1923年に結晶学者のLavesにより発見されており、その後多くの人々により再発見され、その名称は今でも定まっていない(当該研究者はその数学的構成の仕方からK_4結晶と名付けた)。この成果は、 AMSの機関紙Noticesに公表された。 研究活動としては、2007年1月から6月までケンブリッジ大学ニュートン研究所で行われた特別プロジェクトの組織委員として、グラフ上の解析学と応用に関する共同研究を組織した。その成果はAMSのSymposiaにまとめられる予定である。当該研究者も、この報告集の中に「Discrete Geometric Analysis」のタイトルのサーベイを掲載する。さらに5月にはスイス・ローザンヌのベルヌイ研究所での共同研究に参加した。
|