研究概要 |
前年度のコア半径の研究で示唆した,銀河団の合体が放射冷却の抑制に関わっている可能性を理論的に裏付けるため,合体に伴う粒子の加熱・加速過程を調べた.銀河団-小規模銀河団(銀河群)衝突では,小規模銀河団のガス温度が低く,相互作用が密度の低い周縁部で起こるので粒子は高エネルギーまで加速されやすい.しかし,非熱的粒子は熱的粒子と殆ど相互作用せず,また,周縁部であるためコアの熱的状態に及ぼす影響は小さい.これは,流体シミュレーションで得られた銀河団-小規模銀河団相互作用の描像である.しかし,小規模銀河団との衝突の名残と考えられるコールドフロントが比較的内部に見つかっている銀河団もあるので,結論づけるにはさらに検討を要する.一方,同規模の銀河団-銀河団衝突では,ガス温度が比較的高いため発生する衝撃波が弱く1次の粒子加速は期待できないが,緩やかな2次の加速が起きる:衝撃波が伝播した後に不規則な磁場が残され,それによって熱的粒子が散乱・加速されると考える.加速された粒子は熱的粒子と相互作用して一部は準熱的分布を形成し,非熱的粒子は殆ど生成されない.銀河団中心部の温度に近い〜lkeVのガスでこのような2次の粒子加速が起きると,熱的-準熱的粒子相互作用によって非平衡放射となり4-5keVの"熱的"放射のように見えることを示した.これは銀河団ガスから観測されている典型的温度である.また,この非平衡状態では,放射されるK輝線は衝突励起によるものでなく再結合-カスケードによるものなので放射損失には全く寄与しないこと,L輝線放射が強く抑制されることによって,平衡にある熱的放射に比べ著しく放射冷却率が小さくなることを示した.このことは,銀河団ガスの実際の放射冷却時間スケールは,観測で平衡を仮定して得た温度・密度から推定されるものよりずっと長い可能性があることを意味する.
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