本研究の目的は、宇宙論を実験的に検証することを目指し、実験室で初期宇宙の状況を再現する方法を理論的に考案することである。今年度は、実験室で作る宇宙のモデルと類似性のあるボソンスターというソリトン解の安定性と、初期宇宙のインフレーションモデルに制限を与える宇宙マイクロ波背景放射について研究し、以下の成果をあげた。 1.ボソンスターの安定性とカタストロフィー理論 ボソンスターは強い自己重力によって存在するソリトン解であり、その意味で実験室を作る宇宙のモデルと類似性がある。そこで、ボソンスターの定常解を求めてその安定性をカタストロフィー理論で予想し、発展方程式を解いて確認した。その結果、カタストロフィー理論の予想と発展方程式の解析結果は完全に一致し、カタストロフィー理論がボソンスターの安定性解析に有効であることが示された。 2.宇宙マイクロ波背景放射における非線形大規模構造の痕跡 インフレーションモデルを実験的に検証することが本研究の主目的の一つだが、それに関連して、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測からインフレーションモデルに制限を与えることも重要である。一方CMBの揺らぎには、初期宇宙で作られる原始揺らぎの他に光子がボイドやクラスターを通過する際に重力的に受ける効果が含まれる。そこで今回は、後者の効果について、CMBや銀河分布の観測データに基づき理論的に解析した。その結果、CMB揺らぎの中には非線形大規模構造の効果が有意に存在することが示され、更にその結果は半径200Mpc以上のボイドやクラスターが多数存在することを示唆する。
|