格子QCDを用いて弱い相互作用における重いハドロン(チャーム、ボトムクォークを含むハドロン)の行列要素を精度良く計算することはCPの破れの研究にとって非常に重要であるが、重いクォークを格子上で扱う場合はそれ固有の困難がある。問題は、現在の計算機性能では格子QCDのカットオフ、即ち格子間隔の逆数(1/a)は重いクォークの質量(m_Q)より小さく取らざる得ないことである。近年我々筑波大グループはm_Qが1/aよりも大きい条件下における格子上の重いクォークの相対論的定式化を提唱した。これによって、重いクォークを含んだ物理量の連続極限を考えることが可能となり、現在広く行われている非相対論的近似を超えた計算が実現できる。本年度は、昨年度に引き続き相対論的な重いクォークの作用を用いた計算を、PACS-CS Collaborationによって生成された2+1フレーバーの動的クォークを含む配位を用いて行った。この配位の格子間隔は0.09fm程度であり、物理的な空間格子サイズは約3fmである。また、アップ、ダウン、ストレンジクォークのうち、アップとダウンクォーク質量は近似的に縮退させている。本計算において特に着目した物理量はチャームクォークを含むHeavy-Lightメソン系のスペクトラムと崩壊定数である。最終目標は物理的質量を持つ動的アップ、ダウン、ストレンジクォークの効果を取り入れた計算であるが、本年度は物理的クォーク質量近傍での計算を系統的に実行し、軽い動的アップ、ダウンクォークの効果を詳細に調べた。動的クォークの質量に関して物理的な値まで外挿し、Heavy-Lightメソン系のスペクトラムと崩壊定数を実験値と比較した結果、多くの物理、量に対して誤差の範囲内で実験値との一致を確認することができた。
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