今年度は、主として、格子QCDの大規模数値シミュレーションにより、核力の性質を研究した。核力は、原子核を結合させる力であると同時に、中性子星の構造や超新星爆発時の起爆原因としても重要な役割を果たす。特に、遠距離でのπ中間子交換に加えて、近距離では強い斥力芯があることが長年知られてきた。しかしながら、QCDに基づいて、これらの様相を導出した例はこれまで皆無であった。本研究では、格子上に2つの核子を置き、相対波動関数を求めることで、核力ポテンシャルを逆に導出するという手法を採用し、KEKのブルージーンを用いた格子ゲージシミュレーションを行った。 その結果、核力の遠距離引力、中間領域引力に加えて、近距離の斥力芯があらわれることを初めて見出した。さらに、核子のスピン状態による核力の違い(特にスピン一重項と三重項の違い)、S波とD波を混合させるテンソルカの大きさと動径座標依存性、ポテンシャルのクォーク質量依存性などについての系統的解析をクェンチ近似の範囲で行った。この成果は、Phys.Re.Lett.に2007年に出版され、Nature誌からは、2007年に発表された自然科学全分野のなかからハイライト研究21件の一つに選ばれた。 さらに、より小さいクォーク質量での信頼できる結果を得るために、筑波大学計算科学研究センターのPACS-CSシステム上で生成されたフルQCDのゲージ配位を用いてポテンシャルの研究を開始した。すでに、ポテンシャルのエネルギー依存性、フルQCDの場合のテンソル力などについては予備的結果を得ており、H20年度にも継続して研究していく予定である。
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