有限バリオン密度の原子核中では、真空中で自発的に破れたカイラル対称性が部分的に回復することが予想されている。この部分的回復を定量的に議論するため、原子核中に埋め込まれたπ中問子が受けるポテンシャルの密度変化と、低エネルギーπN散乱の情報を組み合わせた、実験データ とカイラル凝縮(カイラル対称性の破れの秩序変数)の密度変化を直接結びつける新しい関係式を導出した。さらに、実験で観測されている深く束縛したπ中間子原子のスペクトルとこの新しい関係式を用いて、核媒質中での約30%の秩序変数の減少が確認された。 通常の原子核は陽子と中性子の複合系であるが、ストレンジクォークを含むハイペロンが混在した原子核(ハイパー核)「が約40種類見つかっている。また、2009年より本格稼働する 大強度陽子加速器研究施設J-PARCでは、K中問子やπ中間子ビームを用いて、より多様なハイパー核の生成が期待されている。ハイパー核構造の理解の鍵になるのは、ハイペロンと陽子や中性子との相互作用(ハイペロンカ)であるが、ハイペロンー核子散乱実験データが極めて限られているため不定要素が大きい。H20年度は、このハイペロンカの問題を量子色力学の数値計算により 理論的に解明しようとする新しい試みを本格的に開始した。特に、J-PARCで行われるEハイパー核の実験と直接関係する冨N相互作用ポテンシャルとそのスピン依存性を、クエンチ近似の格子量子色力学計算により調べた。その結果、スピンに依存する斥力芯の存在、π中間子交換とは異なる振る舞いをする中長距離の引力の存在が明らかになった。
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