1.宇宙の物質・反物質の起源の問題 宇宙の物質・反物質の非対称性を説明するメカニズムとして、素粒子の超対称性に基づくアフレック・ダイン機構があるが、これは重力のアノマリーによって標準モデルの粒子に伝達されるモデルでは、アフレック・ダイン機構を担うフラット方向のスカラー場が不適切な真空にトラップされてしまいうまく働かないと思われていた。この問題に対して、インフレーション後の再加熱温度が十分高ければ、有限温度の効果によってスカラー場が不適切な真空にトラップされるのを防ぐことができ、アフレック・ダイン機構が働き十分なバリオン数が宇宙に生成することを明らかにした。 2.長寿命をもつ超対称性粒子に対する制限 超対称性粒子の内最も軽い粒子はRパリティにより安定であることが知られており、最も軽い超対称性粒子が暗黒物質の有力な候補となっている。もし、グラビティーノが最も軽い場合、標準モデルの粒子の超対称性パートナー中で最も軽い粒子は長寿命でグラビティーノに崩壊する。そこで、スカラー・タウがグラビティーノに崩壊する場合を考え、崩壊によって生成された粒子が宇宙初期に合成された元素の存在比を変えて観測と矛盾しないという要請からスカラー・タウの質量・存在量に制限を求めた。 3.宇宙のモジュライ問題 素粒子の超弦理論では比較的軽いスカラー場(モジュライ場)の存在が予言される。モジュライは宇宙初期に数多く存在し、その密度が大きいため様々な宇宙論的な問題(モジュライ問題)を引き起こす。このモジュライ問題の解決方としてとしてモジュライの質量が大きく十分早い時期に崩壊する場合を考える。しかし、重いモジュライはその崩壊によって大量のエントロピーを生成し、それによって宇宙のバリオン密度が薄められてしまうという新たな問題を引き起こす可能性がある。そこで、アフレック・ダイン機構が薄められても十分なバリオン数を生成できるかを調べ、モジュライ問題の解決とバリオン数生成が両立できる場合があることを明らかにした。
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