宇宙の相転移構造に関していくつかの知見が得られた。 1.【BEC宇宙論(BEC量子相転移)】ボーズアインシュタイン凝縮(BEC)に基づく暗黒エネルギーと暗黒物質の統一モデルをそのまま初期宇宙に拡張して、インフレーションの自然な始まりと終焉、再加熱機構と宇宙項問題を解明した。特に、宇宙膨張が一瞬止まるスタグフレーション時期がかなり一般に起こることを見出し、この時期の一様BEC不安定性から、宇宙項問題解決の重要な足がかりを得た。宇宙で起こった2つの加速膨張期を暗黒物質・暗黒エネルギーとともに統一的に記述するモデルとして重要である。 2.【暗黒乱流(層流・乱流相転移)】暗黒物質の揺らぎが非線系に成長していく過程で乱流状態になり、様々なスケーリング則を示すことを見出した。スモルコフスキーの合体成長方程式とのアナロジーに基づいて、ナビアストークス方程式からコルモゴロフ則を導出してこれを応用した。特に、スケール依存する速度分散・M/L比、角運動量-質量関係、パワースペクトルなどの基本的なスケーリングが統一的な視点から見出された。中でもスケール依存した磁場エネルギーの冪的振る舞いが見出され、宇宙の中でのダイナモ機構のかなり普遍的な存在が強く示唆された。 3.【局所ビリアル関係(重力の相転移)】自己重力系が示す準平衡状態を特徴付ける重要な指標として、部分系に対しても成立する局所ビリアル関係を見出し、それが各部分の一様蒸発率の過程から導けることを議論した。このことは2.とともに、宇宙の様々なスケーリングを説明するための大きな柱となる。 4.【ボイド確率と統計】SDSSの大規模な銀河赤方偏移観測とN体数値計算から、宇宙の密度揺らぎを記述する統計力学を選定する議論を行った。これに基づくと、非加法的でロングテイルを持つ統計力学が最も忠実に揺らぎの進化を記述し、これに基づいて現在におけるボイド確率を予測した。結果として、最近報告されている140Mpcサイズの巨大ボイドでも、標準的な統計力学ではまったく不可能であるが、自然に存在しうることを見出した意義は大きい。
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