本年度の研究計画はスカラー・ベクトル・テンソル理論におけるポスト・ニュートン近似と重力波に関する研究をする予定であったが、残念ながら別なグループによってこの問題は解決されてしまった。そこで、本年度はローレンツ不変性の破れの宇宙論的な効果として重力波への影響を調べた。我々が着目したのはパリティー変換である。超弦理論理論では重力的チャーン・サイモン項が有効作用に誘起されることが知られている。この項はパリティー変換に対する不変性を破る。パリティー不変性が破れた場合には重力波に円偏光が生成される可能性がある。我々は、初期宇宙におけるローレンツ変換の不変性を調べるために原始重力波に対するチャーン・サイモン項の影響を調べた。これまでスローロールインフレーションにおいてこの可能性を調べた研究はあったが結果は否定的なものであった。我々は、超弦理論から示唆されているもう1つの補正項であるガウス・ボンネ項を加えた場合について、原始重力波の生成過程を詳しく調べた。ガウス・ボンネ項はスーパーインフレーションを引き起こす。その結果、ガウス・ボンネ項が生み出す不安定性によって重力波の円偏光が増幅されると言う事実を発見した。この現象にはチャーン・サイモン項とガウス・ボンネ項の両方が重要な役割を果たしており、両方に着目した点が我々の研究の独創的な点である。我々の計算結果によると、振幅も増幅しており、直接観測も十分可能であることが分かった。これは、超弦理論の兆候を重力波の観測によってとらえる可能性を示唆するものであり極めて重要な成果と考えられる。現在、この機構の一般性について研究中であり、さらなる成果が期待される。
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