昨年度に引き続き、酒井・杉本によって提唱された「ホログラフィックQCD模型」におけるバリオンの解析を行った。酒井・杉本模型は、超弦理論において10次元時空上にD4/D8/反D8の3種類のDブレインを配置することで4次元時空上のQCDを再現したものである。この模型をD4ブレイン上の理論として見るとQCDの基本場であるクォークやグルーオンを持った理論となっているが、他方、D8ブレイン上の理論として見るとメソン場から成るQCDの低エネルギー有効理論を与えており、現実世界を数値的にもかなり良い精度で再現することが知られている。本研究課題においては、まず、昨年度の成果であるところフレーバー数が2の場合のバリオン解の構成とその集団座標量子化を、フレーバー数が3のより現実的な場合に拡張した。フレーバー数が3以上の場合はChern-Simons項のnon-Abelian部分が効いてくるので、これは決して自明な拡張ではない。実際、現実のバリオンスペクトルを得るためには、Chern-Simons項の別の表現を用いる必要があることが分かった。この研究は、村田仁樹氏(基礎物理学研究所M2)との共著論文としてProgress of Theoretical Physicsに発表された。バリオンに関する別の研究として、電荷分布・磁気モーメント・axial vector coupling等の静的な諸性質の解析も行った。この解析における最も重要な点は、酒井・杉本模型において4次元の意味でのフレーバーの左右カレントを如何に定義するか、である。我々は、ある種の局所ゲージ変換のNoether currentの積分として与えたカレントを用いて解析を行い、実験値とかなり良い一致を得た。この成果は、村田氏および山戸慎一郎氏(D2)との共著論文としてarXiv:0803.0180に発表された。
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