研究概要 |
原子核同士の衝突確率を意味する反応断面積は、原子核の大きさ、すなわち核半径を調べるための有効な物理量である。原子核の構成要素である核子同士の衝突確率のエネルギー依存性が、中間エネルギー領域で急激に変化することを利用すると、さらに原子核の表面付近の核子密度分布を詳しく調べることができると考えられる。このことを利用し、不安定核における中性子スキンやハロー構造を調べられないかというのが、我々の目指す目標である。そのための第1歩として、まず安定核での反応断面積について詳しく調べた結果、中間エネルギーにおける反応断面積は安定核・不安定核を問わず、核内核子のFermi運動効果と多重散乱効果を取り入れることによって、劇的によく再現されることがわかった。本研究ではさらにこの成果を利用し、原子核表面における核子密度構造を核子散乱の非対称性をも利用して解明していけないかということにチャレンジしたものである。 まずは、中性子スキンの定量を^3H-^3Heのアイソスピン非対称プローブを利用して試みた。2次ビーム^3H,^3Heを用い、Be,C,Al,Nb,Pbなど様々なターゲットに対して、その反応断面積を高精度で測定する実験を行った。実験は射線医学総合研究所のHIMACシンクロトロン施設において、^4He 180MeV/nucleonの1次ビームを用いた。その結果、昨年度と合わせて数10-200MeV/nucleonのエネルギー領域で^3H,^3Heに対する系統的で精度の良い反応断面積実験データを初めて得ることに成功した。さらに、陽子標的としてのポリエチレン標的の可能性についても研究を行った。陽子標的は、アイソスピン非対称度は最大の標的であり、自由に厚さの調整できる簡便な陽子標的としてのポリエチレンは、このような研究に非常に大きく貢献する可能性を持っている。その結果、陽子ハロー核8Bおよび中性子ハロー核11Beに対し、それらのハローがそれぞれ陽子および中性子であることを明確に示すデータが得られ、ポリエチレン陽子標的を用いた核表面構造の研究の道筋がはっきりと示された。
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