研究概要 |
中性子星内部や高エネルギー原子核衝突で実現が期待されるバリオンの高密度状態において,ストレンジネス自由度が顕在化したK中間子凝縮と,ハイペロンが多数核物質中に混在したハイペロン物質との競合・共存関係を検討してきた。本研究では,K凝縮,核子・ハイペロンからなる自己束縛状態(K凝縮原子核)を通常の原子核実験状況下で検討し,その構造について調べた。特にハイペロンの混在がK凝縮原子核の構造に及ぼす効果について検討した。理論的枠組としてはカイラル対称性を具現する有効ラグランジアンを用い,s波型K-バリオン間相互作用を取り入れる。また,有効バリオン間相互作用を用いてバリオンのポテンシャル項を導入する。液滴模型の描像を用い,表面効果及びクーロンポテンシャルの効果を考慮する。電荷,及びストレンジネスの保存条件を課すことによって,原子核内部の高密度状態にあるK凝縮相の状態方程式を得,1核子あたりの束縛エネルギーの質量数依存性,非圧縮率,崩壊モード等の性質を明らかにした。 以下に主な結果を示す。(1)K凝縮原子核のような深く束縛された高密度状態の形成には,核内におけるハイペロンの混在が重要な役割を果たす。(2)密度異性体として深い束縛状態を得るためには,バリオン数と同程度のK^-中間子を核内に束縛させる必要がある。(3)このような深い束縛状態のK凝縮原子核が生成されれば,その崩壊は弱い相互作用過程を通して行われ,非常に長寿命になる。この枠組みでは核内のK凝縮やバリオンの分布について一様性を仮定し,また,K凝縮状態としてコヒーレント状態を仮定している。これらの仮定の妥当性を検討することが今後の課題として挙げられる。国内外の物理学会,研究会等で研究成果の口頭発表を行った。また学術雑誌に論文を投稿中である。
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