研究概要 |
本研究課題では,個々の具体的量子系のダイナミクスを量子系のおかれた状況をより忠実に取り込んだ形で解析し,これを通して異なる階層での理論的枠組みをつなぐ鍵となる概念を見出すことを究極的な目標としている.本年度は以下のような課題に取り組んだ. ・参照qubit系の3次元空間散乱によって標的2qubit系に量子絡み合い状態を生成する機構の分析: 入射単色波近似のもと,空間3次元の短距離ポテンシャル模型において量子絡み合いの度合いであるconcurrenceの解析的評価を結合定数の最低次(Born近似)ならびに全次数で得た.量子絡み合いは標的2qubitを結ぶ方向に散乱された場合が最大となり1次元散乱近似の有効性の確認につながったが,多重散乱による干渉効果が3次元散乱でも確認された.なお,高次効果の取り入れに当たっては結合定数の適切な取り扱い(繰り込み)が必要であり,これによって有限の散乱振幅を得ることができた. ・散乱データによる量子状態再構築(トモグラフィー): 参照qubitを標的qubitに散乱させた場合の散乱データ(透過係数,反射係数)から標的qubitの初期状態を再構築する枠組みを提案した.参照qubitのスピン自由度(入射波のスピン偏極方向および散乱波のスピン測定方向)と入射波数を適切に組み合わせることでトモグラフィーに必要なデータが確かに得られることを確認した.また最適なトモグラフィーをもたらすパラメータの選択も明らかにした. ・繰り返し測定による量子状態制御の枠組みを単一モードの空洞内に置かれた非相対論的粒子に適用し,粒子が基底状態にあることの確認を繰り返すことで空洞モードがsqueezed状態に導かれることを明らかにした.
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