大強度ビームの通過に耐えうる強度、冷却性能、遠隔メンテナンス性等を備えたビーム膜の開発・実用化は、J-PARCのような大強度陽子ビームを用いた実験を実現するには必要不可欠なものであり、非常に重要な意義を持つ。その一例として、J-PARCニュートリノビームラインの一次ビームラインの真空系と標的用ヘリウムガス容器を分離する真空膜に関して、高エネルギー加速器研究機構、英国RAL研究所の技術職員を研究協力者として、その設計、開発を進めた。まず、MARS、GEANT、ANSYS等のシミュレーションプログラムを用いて、大強度陽子ビームが通過する際の温度上昇や熱応力を評価し、半球状の二重膜の間にヘリウムガスを流して冷却する、という基本設計に問題が無いことを確認した。英国の研究協力者に、パルスビームによる熱衝撃とその伝搬のシミュレーションを依頼し、0.3mm厚のTi-6Al-4V合金膜が3x10^<14>個の陽子ビームによるパルス衝撃に耐えられることを確認した。また、二重膜間のヘリウムガスの流れのシミュレーションを依頼し、半円球表面で想定している100W/m^<2>Kの熱伝達率が達成できることを確認した。また、装置の遠隔着脱を可能にするピローシールフランジとチタン合金膜の組み立て方法を含む全体構造に関しても、英国研究協力者を指導し、詳細設計を完成させた。また、ピローシールフランジの真空シールの要となる部品である、鏡面対向フランジ及びヘリコフレックスシールの試作を行い、真空リーク量などの基本的性能の確認を行って、ビームラインで実用できる性能であることを確認した。また、カナダTRIUMF研究所と英国RAL研究所の技術職員を研究協力者として、遠隔着脱試験、遠隔移動試験を行い、問題点の洗い出しを行った。最後に、周辺の遮断設計やリモートメンテナンス方法の検討、ヘリウムガス循環装置の検討も行い、実際にJ-PARC等で使用可能なビーム膜システムのメンテナンスや周辺装置についても設計を固めた。
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