本研究は、放射光用光源リングなどの蓄積リングにおいて、Top-Up運転に有効であると期待されるパルス六極電磁石を用いた新しい独創的な入射方式を検証するための開発研究である。新入射方式の検証は、実際に運転されている高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設の2.5GeVリング(PFリング)で行った。この入射方式の長所は、従来のパルス偏向電磁石を数台用いる入射方式に比べ、入射時に局所バンプを必要としないことから、蓄積ビームの振動を小さくすることができるという点および1台のパルス電磁石で入射が可能になるという点にある。 本年度は研究開発の3年目の年度であった。初年度にパルス六極電磁石を新規製作、次年度にセラミックダクトの製作、磁石の磁場測定を行い、電磁石をPFリングに設置した。3年目にあたる本年度は、実際に入射ビームをリングに打ち込み、1台のパルス六極電磁石によって入射が可能であるかどうか、入射時の得席ビームの振動が従来の入射システムに比べ抑制されているかどうかを確かめる実験を行うことであった。パルス電源には、既設電源が使用された。 入射ビームとパルス電磁石の励磁のタイミングを合わせ、セプタム電磁石で1mrad程度入射角度を大きくすると、電子ビームはすぐに周回し始め、さらにRFを投入すると蓄積を開始した。世界で初めて、パルス6極電磁石でビーム蓄積に成功した瞬間である。これで、当初の研究目的は達成されたことになる。この後、さらにビームライン側で、X線強度の高速測定により、従来の入射方式とパルス6極電磁石の入射方式では、入射時の強度変化に格段の差(パルス6極入射の方が、強度変化が10分の1以下になることがわかり、入射時も蓄積ビームの振動が非常に抑制されていることが判明した。 これら一連の成果を、イタリア・ジェノバで開催された粒子加速器国際会議(EPAC08)で発表した。また、日本加速器学会年会でポスター発表、日本放射光学会年会で口頭発表を行った。
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