研究概要 |
本研究では、ガラス構造の主要物性で重要な役割を果たすと言われている中距離規則構造とその揺らぎであるナノボイド(空隙)を、ナノボイドに局在するポジトロニウム(Ps:電子と陽電子の水素様束縛状態)を用いて調べた。Psは中性の軽粒子であり、ガラス中ではナノボイドを自ら探し出し(自己探索)、そこに局在し、そこの空間的拡がり、ナノボイド周囲化学元素の情報を選択的に伝えてくれるという特徴を持つ。そこで、SiO_2を主成分とする各種2成分系モデルガラスを製作し、ナノボイド中に形成したPsの運動量分布、寿命からナノボイドの寸法について系統的に調べた。即ち、パラPs(p-Ps)の運動量分布から不確定性原理を用いる方法と、オルソPs(o-Ps)のピックオフ消滅寿命から、高分子中の自由体積解析に使われているTao-Eldrup模型を用いる方法の両方から、各種ガラス中のナノボイドの平均半径の化学組成依存性を求めた。全く独立した手法による両者の解析結果はコンシステントであり、ガラス網目形成体であるB_2O_3、 GeO_2を添加したガラス中のナノボイド平均半径は2成分ガラスのモル濃度比に比例して変化した。一方、網目修飾体であるLi_2O、 Na_2O、K_2Oを添加したR_2O-SiO_2ガラス(R=Li,Na,K)では、R_2Oモル濃度が増加すると、平均半径が急激に減少した。これは、網目修飾体を含む場合には、SiO_4四面体が作るガラス網目のナノボイドに網目修飾体のRイオンが入り込む構造を取るためである。これらの結果は、Zachariasen-Warrenガラス構造模型の空隙を直接かつ系統的に観測した結果である。さらに実験結果は、Rイオンは大きなナノボイドから優先的入り込むことを示している。これらの結果は今問題となっている放射性廃棄物ガラス固化体の安定性を評価する上で重要なものではないかと考えている。
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