近年の半導体微細加工技術の進歩により、2次元電子系に非常に薄く長い絶縁体を加工することが可能となり、この絶縁体が加工された2次元電子系の整数量子ホール状態におけるトンネルスペクトルが注目されている。この系では、薄い絶縁体のため、端状態が生成し、絶縁体で分離された領域の端状態のエネルギー準位が交差する箇所に微小なギャップを生じることが実験的に確かめられている。この実験事実に対して、理論、または数値計算による多くの研究が行われてきたが、これらの研究は、様々な箇所で実験と矛盾する点が生じている。本研究では、この2次元系に対して、数値シミュレーションを用いた理論研究を行い、以下の結果を得ることができた。 (1)このような系では、減衰波の広がりが大きいため、実験と同程度の構造を考慮した計算を行わなければ、量子干渉効果の存在により、正しい結論を得ることができない。十分大きな系を用いることで、磁場印加下に於いてポテンシャル揺らぎにより導かれた数多くの仮想束縛状態を介した共鳴トンネル効果、温度効果により、報告された伝導度ピーク値を再現できた。これは、Luttinger流体を仮定したものとほぼ等しい。 (2)これまで行われたすべての研究では、完全なスピン分極の仮定が実験値(少なくともν〜1の時)を再現させるのに本質的であるという結論であったが、本研究では、スピン分極は大きくないと結論した。これは、観測された量子細線のg値の最大値からも支持され、また、最近の実験報告における各ピークのスピン分裂とも一致している。 (3)電子間相互作用を考慮することにより、有限バイアスに於いても、実験ピーク位置を再現することができ、この2次元系がQuantum Railroadと呼ばれる特別な系であることを示すことができた。 (4)量子ホール効果のブレークダウンを仮定することにより、実験値の微細構造を明らかにした。
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