研究課題
基盤研究(C)
近年、非常に薄い障壁(100A以下)が加工された2次元電子系の整数量子ホール状態におけるトンネルスペクトルが話題となっている。このような系では、薄い絶縁体のため端状態が生成し、絶縁体で分離された領域の端状態のエネルギー準位が交差する箇所に微小なギャップが生じることが実験的に確かめられている。本研究では、この実験事実を理論的に、また、数値計算を通して詳しく解析した。この結果、以下に示すことがわかった。(1)実験で示された伝導度におけるピーク幅および強度は、ドープ層のドナーとの相互作用を考え、大きな相関長を持つランダムポテンシャルを障壁近傍に配置し、さらに、有限温度の効果を加えることにより、よく説明できた。また、温度変化を行った時の振る舞いも矛盾なく説明できた。(2)実験で示されたギャップの位置の変化は、self-consistent Hartree近似により、ギャップの位置の変化を調べることでよく理解することができた。スピン分極が小さいことを仮定し、さらに、付加的な正電荷が存在するものと仮定することにより、ギャップ位置を定量的に再現することができた。(3)量子ホール効果のブレークダウンを仮定することにより、スペクトルの特異な変化を矛盾なく説明することができた。この事実は、スピン分極がこのような系では小さいことを支持するものである。(4)本研究の結果、Kangらの実験結果が、一般的なQuantum Railroad (乱れた1次元電子導波路の性質の1つ。一般的なものは実験報告されたことはない)を観測した初めてのものであることが解った。
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J. Phys. : Conf. Ser. 51
ページ: 423-426
ページ: 155-158