研究課題
基盤研究(C)
放射線によるDNA(デオキシリボ核酸)の損傷研究は放射線生物学において極めて重要なテーマであるが、その原子分子レベルでの素過程を電子分光法などによって明らかにする研究は未開拓の分野である。損傷には、DNA自身の電子励起に由来する直接的な損傷過程と、DNA近傍の水分子の電子励起などにより生成したラジカルなどによる間接的な損傷過程が存在する。直接的な損傷過程としては、内殻イオン化、オージェ過程、イオン脱離というオージェ刺激イオン脱離過程が重要であると考えられる。本研究の目的は、DNAに軟X線放射光を照射して、X線光電子分光法、イオン運動エネルギー測定法、コインシデンス分光法を用いて内殻光電子放出、オージェ過程、イオン脱離を測定することにより、DNAの内殻励起に由来する化学結合切断素過程を解明することである。平成18年度はチオール化DNA自己組織化単分子膜の軟X線を照射して内殻光電子と光イオンのコインシデンス測定、内殻光電子とオージェ電子のコインシデンス測定を試みた。しかしながら、ほとんどのコインシデンスシグナルがバックグランドに埋もれてしまい、有意なデータが得られたのは炭素1s内殻光電子と炭素KVVオージェ電子のコインシデンススペクトルのみであったまた、PF-BL11Dに設置してある光電子分光装置の改良にも取組んだが、DNAの研究を行うにはシグナル/バックグラウンド比の点で不十分であることがわかったため、平成19年度は改良したコインシデンス分光装置の開発に力を注いだ。その結果、新しい電子-電子-イオンコインシデンス分光装置の開発に成功した。
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