キャリアがバンドを部分的にしか占有していないにもかかわらず、電子間相互作用の影響で電子が局在化し、低温で絶縁体に転移することをモット転移と呼ぶ。銅酸化物高温超伝導体がモット絶縁体に少量の電子やホールをドープして実現されることから、モット転移は大きな注目を集めている。 平成19年度は、主にモット転移近傍の金属相及び絶縁相へ転移する様子を光電子及び光吸収スペクトルを通して明らかにした。光学スペクトルは経路積分形式量子モンテカルロ法によって計算した。今回明らかになったことは、 1.光電子スペクトルに現れるフェルミエネルギー(E_F)上でのピークは、温度の低下とともにその幅が広がる。熱揺らぎは減少しているはずなので、これは絶縁相への揺らぎ、つまり反強磁性揺らぎに起因していると考えられる。 2.更に温度を下げるとE_F近傍に鋭いピークが現れるが、このピークのエネルギー位置は温度依存しない。これはギャップが少しずつ成長するのではなく、ギャップの開いた状態が揺らぎとして成長していることを示唆している。 3.光吸収スペクトルは温度の低下とともにドルーデ成分が減少しエネルギーギャップに対応する位置に強度が移っていく。このこともギャップが連続的に成長するのではなく、ギャップの開いた状態が揺らぎとして成長していることを示唆している。 4.これらの結果はSMIS実験の結果とも整合している。 以上の計算結果は、モット転移の性質を理解する上で重要な結果であると考えており、現在、論文としてまとめている段階である。
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