研究概要 |
本研究では有機半導体を用いたトランジスタを作成する際、半導体の電子状態を制御する方法として極性のある単分子膜などの材料を接触させ、界面から制御するという方法を検討している。特に電極との接合界面のショットキーバリアを低減する可能性を検討した予備的計算の結果では、金属・単分子膜の,2層構造の表面に十分な大きさの電位差が生じ有望な方法であるとの見通しを得ていた。 今年度はまず、有効遮蔽場法という計算法を新たに導入し、金属・単分子膜2層構造モデルの計算を行った。この方法は、周期的境界条件下の界面の計算でどうしても発生してしまう、隣接する界面からのクーロン相互作用を排除できるので、信頼性が高い。その計算の結果、電位差発生効果は予備計算よりも小さめに算出されたが、それでも得られる電位差は単分子膜の種類によっては十分な大きさで、ショットキーバリア低減効果が十分に期待できることがわかった。金電極にペンタセンを接合する場合、ペンタフルオロエタンチオールなどのフッ素を付加した分子が有望な分子材料候補である。これらの計算結果を受けて、実際に有望な単分子膜の一つを用いて有機FETを作成し測定を行ったところ、単分子膜を用いない場合と比べて接触抵抗が減少し、移動度が2倍程度になる事が確かめられた。 次に、単分子膜が有機半導体に与える影響をより詳しく調べるため、金属・単分子膜・有機半導体の3層構造の電子状態を同様の方法により計算した。その結果、2層構造で予測した場合よりも小さくはなるが電位差発生効果が存在することがわかった。これは実験で接触抵抗低減効果が得られた事と一致する。効果が小さくなったのは、有機半導体と単分子膜の間の相互作用が原因と考えられるので、今後この点をより詳しく解明する必要がある。
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