研究概要 |
強電子相関物質の一つであるSr_2RuO_4は,NMRのナイトシフト測定およびμSRから,その超伝導状態では時間反転対称性の破れた2成分の秩序変数が縮退したスピン三重項状態が実現していると考えられている.さらに,超伝導秩序変数の縮退のため,強磁性の磁区構造に似たドメイン構造を作る可能性が以前から示唆されていたが,近年Polar-Kerr効果の測定によって,大きさが50-100μm程度のドメイン構造を直接観測された.本研究ではSr_2RuO_4を報告されているドメインサイズよりも小さい数10μm程度のサイズに超音波破砕機および,集束イオンビームFIB(FIB)を用いて加工してSr_2RuO_4の多重連結リングを作製し,磁場中電気抵抗測定によるリトルパークス振動の観測行ない,超伝導ドメインが与える影響を調べることを第一の目的としている. 本研究で使用したSr_2RuO_4単結晶試料(超伝導転移温度Tc=1.42K)はフローティングゾーン法によって作製し,試料の微細加工後はマイクロサンプリングプローブと呼ばれる非常に細いガラス棒でSi基板にのせ,Gaイオンビームを照射することでタングステンを層状に堆積させることができるデポジッションによって4端子電極を形成し,磁場中の電気抵抗測定を試みた.その結果,磁場を[001]方向に印加した場合,磁場によって電気抵抗が振動する現象は観測された.しかし,技術的な問題点もあり,この振動が本質的なものか,はっきりとした結論が得られていない.一方,リトルーパークス振動測定と並行して行った弱磁場領域(H//[001])の精密磁化測定から,以下のような結果を得た.すなわち,弱磁場領域では,ヒステリシスの大きさが磁場勾配に依存し,磁場勾配を大きくするにしたがって,ヒステリシスが小さくなる.この現象は,他の第II種超伝導体ではこれまで観測されていない現象であり,Sr_2RuO_4において初めて発見されたものである.我々は,超伝導秩序変数が2成分あることに起因している現象と考えている.
|