1. パターン形成を伴う非平衡定常状態の典型例であるレイリー・ベナール対流を、ボルツマン方程式を用いて統計力学的に考察した。まず、ボルツマン方程式を解く問題を、連続の方程式、ナヴィエーストークス方程式、および、熱伝導方程式を解く問題に簡略化し、対応する分布関数とエントロピーの表式を与えた。次に、これらの方程式をレーリー・ベナール対流に適用し、上下の境界で速度が0になるという現実的な境界条件の下で解いた。その際に用いた手法は、フーリエ展開の拡張であるガラーキン展開法である。そして、レイリー・ベナール転移の際のエントロピー変化をエネルギー流一定の条件下で計算し、対流転移に際してエントロピーが増大することを見出した。 2. 電磁場下での金属電子の動力学を記述する量子輸送方程式を導出した。金属電子の輸送現象は、従来、久保公式等の線型応答理論もしくは現象論的なボルツマン方程式を用いて解析されてきた。しかし、線型応答理論は電磁場が弱い場合にのみ有効で、かつ、系の時間発展を記述できない。また、ボルツマン方程式は、時間発展は記述できるが、その基礎があいまいである。そこで我々は、電磁場下にある金属電子の時間発展を記述する方程式を、微視的・統計力学的に導出することを行った。より具体的には、ケルディシュ・グリーン関数に対するダイソン方程式を出発点とし、格子の周期性と電磁場のゲージ不変性をきちんと考慮して、ウィグナー表示における量子輸送方程式を導出した。ボルツマン方程式を一極限として含むこの量子輸送方程式は、時間発展を伴う金属電子の輸送現象を解明する上で、今後、重要な役割を担うものと考えている。
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