アインシュタインは、彼が1905年に提出した特殊相対性理論の論文の中でローレンツ力に言及し、その磁場依存成分である磁気ローレンツ力が、電場中の荷電粒子に働く力から、相対性理論により自然に導かれることを指摘した。このように、磁気ローレンツ力は、相対性理論によりその存在が導かれる自然界の基本的な力の一つであり、あらゆる荷電粒子に働くことが期待される。しかし、超伝導体を理論的に記述するのに広く用いられるギンツブルグ-ランダウ方程式や準古典アイレンバーガー方程式では、超伝導電流に磁気ローレンツ力が働かないという結果が得られ、超伝導理論の基本的問題として未解決のまま残されてきた。代表者は、この問題に対し、2001年に準古典方程式の微視的導出に関する研究を行った。そして、方程式のゲージ不変性を適切に考慮することで、従来の準古典方程式に磁気ローレンツ力が自然に付け加わることを示していた。今年度の研究では、この磁気ローレンツ力を含む準古典方程式を熱平衡状態で具体的に解き、磁気ローレンツ力が超伝導電流にもたらす影響とその実験的検証方法を明らかにすることができた。熱平衡状態で散逸なく流れる超伝導電流は、マクロな反磁性電流であり、有限の磁場が付随する。一方、磁場下で荷電粒子が運動すると、磁気ローレンツ力を受け、粒子の軌道が曲がってゆくことになる。従って、超伝導電流が熱平衡状態で定常的に流れるには、ローレンツ力を打ち消す力がなければならない。上記の論文では、この力が電子の再配置によって生じる電場によりもたらされることを明らかにし、そのホール係数に対する理論的な表式を導出した。特に、超伝導体のエネルギー・ギャップに異方性のある場合には、ホール係数の符号が温度の関数として逆転する可能性のあることを初めて指摘した。これは、超伝導体の輸送係数についての新たな知見であり、ホール係数の符号反転問題の解明に契機を与える重要な結果である。
|