研究概要 |
銅酸化物高温超伝導に代表される相関の強い電子系の超伝導の理論研究は20年になる。現在、重い電子系を含めて、クーロン斥力に起源を持つ超伝導はフェルミ液体論に基づいて理解されることが確立してきた。クーロン斥力は質量の繰り込まれた準粒子を形成する。この準粒子の間にクーロン斥力に由来する運動量に依存する引力が働き、p-波やd-波などの異方的超伝導を生じる。このとき、超伝導転移温度がどのように決まるのかが研究課題であった。 われわれは世界で初めて定量的な議論に成功した。それは次の2つの因子が重要である。 1.フェルミ面の準粒子間に働く相互作用の強さである。相互作用の等方的な部分はギャップ関数の符号の変化で打ち消されるので運動量に依存する部分が引力の強さを決定する。 2.超伝導は繰り込まれた準粒子のバンドのフェルミ面に超伝導ギャップを形成するので、準粒子バンドの幅がエネルギースケールを支配する。有効質量の繰り込み因子の逆数である、繰り込み因子が小さくなるとそれに比例して超伝導転移温度が低くなる。銅酸化物では繰り込み因子は1/10,有機超伝導体のそれは1/100,重い電子系では1/1000である。超伝導転移温度Tcはそれぞれ100K,10K,1Kと繰り込み因子に比例して低くなっている。 以上を実証すべく、d-p模型で2つの系の高温超電導体YBCOとLSCOに対してフェルミ液体論に基づく転移温度の計算を行った。現実には前者のYBCOが90Kの転移温度を持ち、後者のLSCOが40KのTcを持つ。有効質量はLSCOが2倍近く大きく、小さい繰り込み因子をもつ。これが電子相関が強いLSCOの転移温度を低くすることがわかった。この計算結果をJPSJの10月号に発表した。
|