研究課題
基盤研究(C)
2次元電子系のトポロジカルな性質を理解するために主に2つの研究を行った。研究1.グラフェンの量子ホール効果。最近グラフェン(グラファイトの単層シート)が興味を持たれている。この系は、バレンス・バンドと伝導バンドがある点で縮退し、0ギャップ半導体であり、この点の周りの励起は線形分散を持ったディラック・フェルミオンとなっている。このような系に磁場をかけると量子ホール効果が観測されるが、その量子化則は通常の2次元系と著しい違いがある。この新しい量子ホール効果が実際に実験的に観測されて、多くの興味を引いている。我々は、グラフェンを一般化した模型を提案し、全てのエネルギー領域でホール・コンダクタンスを計算した。これによって、ディラック的な振る舞いは0エネルギー近傍に限られていること、その外側では通常の量子ホール効果となること、そして、この2つの領域を分けているものが所謂ファン・ホーベ特異性であることを示した。研究2.量子スピンホール効果。スピントロニクスの一つの可能性として量子スピンホール効果が大きな興味を持たれている。これは、通常の量子ホール効果のスピン版ともいえる現象で、バルクのバンドにはフェルミ面にギャップが存在しているが、エッジの存在によってスピン流が流れる現象であり、理論的に予言されたものである。通常の量子ホール効果が、チャーン数というトポロジカル数によって特徴づけられるのに対して、量子スピンホール効果ではZ2トポロジカル数というこれまでにないトポロジカル数によって特徴づけられることが知られている。以前我々は、チャーン数を計算する極めて有効な理論を提案したが、本研究ではこれを改良することによって、新しいZ2トポロジカル数の計算を可能にする方法を2つ提案した。この方法は大変簡単かつ厳密なもので、しかも現実的な物質に対しても応用可能という優れたものである。実際にBiやSbに対して計算を行いこれらの物質での量子スピンホール効果の可能性を議論した。
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