研究課題
本研究は、電子ダイナミクスを第一原理的に記述する計算科学的なアプローチを発展させ、フェムト秒領域で起こる光と物質中の電子との相互作用を定量的に記述し、物質の光応答の本質を明らかにすることを目的としている。本年度は、強レーザー場中にある分子と固体における電子とイオンのダイナミクスに関する解析、及び比較的大きなサイズの物質の光応答の例としてフラーレンの光応答に関する研究を進めた。強レーザー場中にある分子中の電子・イオンダイナミクスの解明に関しては、これまでに解析を進めてきたN2分子に加え、H2S分子やフラーレンC60など、多原子分子に対する分析を進めた。フラーレンの揚合には、多価イオン化に伴い励起される振動モードとして、従来実験的に指摘されていた四重極及び単極振動に加え、5角形の辺をなす結合が振動するモードが重要となることを指摘した。また、強レーザー場を誘電体に照射した場合に起こるコヒーレントフォノンの記述を、ダイヤモンドを例に行った。実験的にはラマン散乱と同一の選択則を持つコヒーレントフォノンの生成が見出されているが、計算でも同一の選択則となることを確認した。また、フォノンの振幅の絶対値の見積もりが可能であることを示し、5x1013W/cm2の強度ではレーザーパルスから誘電体に移行したエネルギーのうち、約1/2700がコヒーレントフォノンに移行することを見出した。上記は強い場による非線形ダイナミクスの例であるが、我々の理論では弱い光に対して分子の振動子強度に対する高精度な計算が可能である。サイズの大きな物質に対する応用例として、C60分子の振動子強度の計算を行い、最近の実験による測定と非常に良い一致を示すことを示した。
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